「セシウムさん」の謎

20数年前テレビ業界に入って新鮮に響いた業界用語が二つある。「完パケ」と「ピーカン」だ。いずれも業界で働く者たちの気分を象徴している。よく言えば明るい。悪く言えば真剣に考えることを好まない(少なくとも私のまわりである)。

前者は完全パッケージの略で、番組が(CM部分は黒みの状態だが)完成した状態、それが録画されたビデオテープのこと。「いつ完パケできんだよ~」とか「完パケ納品してきて」というように用いる。私にとっては達成感と虚脱感が付着した言葉だ。

もうひとつの「ピーカン」は、雲ひとつない青空、若しくはそのような晴天のこと。ただ、夏のギラギラした太陽の昇る青空よりも、真冬の西高東低の気圧配置の時に太平洋側で見られるような青空のほうがこの語には似つかわしいように感じる。

どちらも破裂音「p」と「k」があることが共通点で、この2音が突き抜けるような語感を醸し出している。似たような語感を持つ言葉として、「パーペキ」、「ポッキリ」、「木端」、「缶ピー」などなど。


さて、東海テレビの番組「ぴーかんテレビ」が、不適切なテロップが流れた件で打ち切りになった。視聴者プレゼント岩手県産ひとめぼれの当選者発表テロップが、リハーサルで使ったものが流れてしまい、しかもそこには「怪しいお米セシウムさん」「汚染されたお米セシウムさん」と書かれていたのである。

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スタジオ番組では出演者やスタッフのテンションを上げるために、リハーサルでいろいろな冗談を言うことはある。観客のいる場合などは特に、彼らのリアクションが番組の雰囲気を左右するから、フロアディレクターが観客を笑わせ、盛り上げるように苦心する。「前説」だ。

今回の「セシウムさん」テロップも、テロップ作成者がみんなを笑わせようとして作成し、それがたまたま誤って本番でも流れてしまったのだろうと思っていた。しかし、番組や東海テレビの説明を見ると、いくつかの謎が残る。

1.テロップが流れたタイミング
23秒間の「セシウムさん」テロップが表示されたのは、稲庭うどんの通信販売のVTRが放映されていた途中である。23秒間の間も音声は流れ続け、「厳しい自然環境の中で職人さんの技による…」という音声が流れている。どうしてこのタイミングで画面をテロップに切り替えたのか?それがまず第一の謎である。

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本来当選者を発表するテロップが流れるべきタイミングで、リハーサル用に制作したテロップが誤って流れてしまったのであれば理解できる。いや、当選者発表とは無関係の別のテロップが流れるべきところで、誤って流してしまったのということでも構わない。それならばテロップを出すというオペレーションそのものは正しくて、準備されていたものが間違っていた、ということだからだ。

しかし今回は、約10分の通信販売VTRを流している途中で「セシウムさん」テロップが表示された。10分の通販VTRを流している時というのは、生放送のスタジオにいる出演者・スタッフは本来何もしなくてよい時間である。ただVTRを流していればよい。なのになぜ、画面切り替え操作をしたのか。

東海テレビの説明では、この間にエンディングのリハーサルをしていたらしい。23秒間もミスに気付かなかったのはリハーサル中だったからオンエアモニターに注意していなかったからということである。ミスをしたのはタイムキーパーで、この間に別の作業をしていて誤って「セシウムさん」テロップをオンエア用の「T1」ラインに乗せたとのことだ。このあたりの仕組みは説明番組ではよくわからないのだが、とにかくオンエアしているものには何も手を出す必要がない場面で、不必要なものをオンエアさせてしまったのは信じられないミスである。

2.手書きの当選者名
結局本当の当選者名はエンディングにフリップで放送された。しかしこのフリップが異様だ。そこには3名の名前がカタカナで手書きで書かれていた。これまでこの番組を見たことはないので不明だが、これはいつもの方式なのだろうか?それともいつもはちゃんとCGで名前を書いたテロップを流すのだが今回は急遽スタッフが書いたのフリップを使ったのか?。CG制作者がスタンバイしているのだから後者だとは思うが、なぜテロップと同デザインのフリップがあったのかやや疑問も残る。

後者だとして、ではなぜ今回は手書きのフリップなのか?CG制作者が作った本当の当選者名入りのテロップはなぜ使われなかったのか?まさかCG制作者は本当の当選者名入りテロップを作っていなかったのだろうか?

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CG制作者が本番用のテロップを作っていた場合なぜそれが用いられなかったのか?混乱してどこにあるのか不明だったのかもしれない、あるいはもうその制作者を信じられないので手書きで作成したのだろうか。

3.CG制作者はなぜ頑なに訂正を拒んだのか?
東海テレビの説明によると、前日の打ち合わせでタイムキーパーがCG制作者に訂正を申し入れたが訂正されず、当日本番前になっても訂正されていなかったので再度タイムキーパーが訂正するよう言ったという。しかしCG制作者は結局訂正しなかった。いったいこの頑なさはなんなんだろうか?

CG制作者の気持ちを考えてみると、せっかく「傑作」を作ったのだからスタッフ・出演者に一目でも見てもらいたい、本番用のものは別にちゃんと作ればよい、というようなところであろうか。しかしその肝心の本番用のテロップは本当に作られたのだろうか?

4.なぜリハーサル用のものが作られたのか?
プレゼントの応募締め切りがいつだったのかわからないが、東海テレビの説明では前日にタイムキーパーがCG制作者に会い、テロップを確認したことになっている。そのとき「セシウムさん」テロップを見て、訂正するように伝えたが伝わらなかったとのことだ。

わからないのは、当選者がいつ決定したのかである。放送前日であれば当選者が確定していてもおかしくない、というよりも、段取りを考えれば本番前日には当選者が決定できるように締め切りを設定し、本番用のテロップを制作してもらうのが自然な流れだろう。

百歩譲って本番前日にタイムキーパーが確認したテロップがリハーサル用のものだとして、わざわざリハーサル用のテロップをタイムキーバーが確認しに行くというのはどうも不自然な気がする。そもそも、リハーサル用のテロップをわざわざ作るだろうか?「岩手県産ひとめぼれ10kg当選者」という文言は毎回変わるから確認する必要はあろうが、当選者が決まっていない段階でリハーサル用のテロップを確認しに行ったという説明は納得しがたい。リハーサル用のテロップなんて、はっきり言ってなんでもいいのである。「ここに当選者名が入ります」と書いたもので十分なのである。

5.リハーサルでは何が使われたのか?
東海テレビの説明に出てこないのが、実際のリハーサルで「セシウムさん」テロップが使われたのか否かという点である。通常の番組では本番直前にリハーサルをするが、そうであれば、そこではリハーサル用の「セシウムさん」テロップを用い、わずか数十分・数時間後の本番では当選者名入りのテロップを使うというのは奇異に感じられる。しかもこの番組で当選者発表が行われたのはエンディングあり、そのリハーサルは本番中の通販VTRが流れているときに行われたのだからタイムラグはさらに小さい。本番中に行われたリハーサル時に、本番で用いるものとは別の「リハーサル用の」テロップが使われたという理解不能の事態となってしまう。

6.勘繰り
以上のようなことを考えると、次のような流れが自然なのではないだろうか。
タイムキーパーは本番前日にCG制作者のもとに、テロップを確認しに行った。ただし、これはリハーサル用のものではなく、本番用のものである。テロップは他にもたくさんあった。CG制作者はタイムキーパーにふざけて作った「セシウムさん」テロップを見せた。タイムキーパーは「何バカなもん作ってんのよ。ちゃんとしたのを明日持って来て」と言い、他のテロップはプリントアウトして持ち帰りディレクターと打ち合わせたが、当選者名のテロップは明日できるとしか言わなかった。

当日、CG制作者は「セシウムさん」テロップしか持って来なかった。タイムキーパーは当選者名入りのものを作るようCG制作者に言った。そして本番になったが、CG制作者はまだ当選者名入りのテロップを作っていなかった。

そうこうするうちに通販VTRの時間になり、エンディングのリハーサルが始まった。当選者発表のテロップに切り替えようとしたときに、タイムキーパーはちゃんとした当選者名入りのテロップが用意されているものと思い込み、画面をこれに切り替えた。が、そこには「セシウムさん」テロップしかなかった。さらにタイムキーパーはオンエアラインに切り替えるというミスを犯してしまった。そしてオフラインのモニターに当選者名テロップが表示されないのを不思議に思いながらも、「セシウムさん」テロップがオンエアされているのを23秒間気付かなかった。番組は打ち切りになった。

CG制作者が何を考えていたのか、それが最も知りたいことである。

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