NPOのこと

「レモン市場」という甘酸っぱく唾液腺を刺激する言葉が経済学にはあるのだが、実は中古車市場では低価格の車が売れやすい傾向にあり、その原因は情報の非対称性であるというお話である。

欠陥車のことをアメリカでは「レモン」と呼ぶ。「すっぱい」かららしい。

中古車市場には良い車も悪い車もある。売り手はそれをよく知っていて、それなりの価格をつける。しかしながら買い手は(実際に乗ってみるまでは分からないのだから)売り手の言葉を信じて高い中古車を購入する気にはなれず、安い車を購入する。その結果、レモンばかりが売れ、ひいては中古車は故障しやすいという評判になってしまうという話だ。

市場経済が万能ではないことは昔から指摘されていた。公害は最たる例。レモン市場が示す情報の非対称性もその一つだ。

これも情報の非対称性の一例と言えるかもしれないという体験を今日はした。こちらはその方のお顔やどんなことをお考えで何をなさっているかを少々知っているが、あちらは私のことを一切知らない。栄町で行われた市民活動フェスタのための団体紹介ビデオを制作したので、写真とパンフレットだけとは言え、おそらくは50回を超えるくらい編集ソフト上で接してきていて脳裏に焼き付いている。会場のあちこちでおなじみのお顔を見かけた。内偵中の刑事みたいなシチュエーションで落ち着かない。

一刻も早く「あちらで上映しているビデオを作ったものです・・・」と、当方はあなたのことを知っていることを伝えたくなり、現に何人かの方には申し上げたのだが、すべてとはいかなかった。

62団体が参加したこのイベントは、県のNPO推進月間の目玉である。堂本知事が掲げてきた「県民参加」の象徴とも言えるだろう。予算も人員も知恵も限られた行政だけでは住みよい世の中は実現できないからだという。そんなことは当たり前で、たとえ予算も人員も知恵も十分にあったにせよ、行政だけでは世の中は住みよくならない。依存型の人間が増えるだけだ。

行政が市民活動を評価し、このような形で支援することは一見望ましい事態で、県の方々もよかれと思っているであろう。しかしながらNPO法人という制度ができてその認証権限を県が持っている(会社設立は準則主義だがNPO法人は認可主義と言われている)、そしてNPO法人を対象とした助成金が増える(出す側にとってはアウトソースと呼ばれるが)という状態が本当に望ましいのかどうかはもう少し慎重に考えるべきだろう。

かつて市民団体は自由に活動を行っていた。もちろんお金はない。その代わり知恵を絞ったかもしれない。あるいはそもそもお金のかかることなんか必要なかったかもしれない。数人~数十人が集まれる公共のスペースを無料で借りられて、そこで心を通わせるだけでも良かったのかもしれない。あるいはお金が必要ならば会員を募って、趣旨に賛同してもらえるように言葉を磨き、活動を充実させてきたかもしれない。

それが今、NPOは助成金を獲得するために県に受け入れられそうな事業を考案し、あるいは指定管理者という形で自治体の監督下で公共施設の管理を行うようになった。一般の人を対象として磨いてきた言葉が少しずつ「お上」を意識したものに変わっていってはいないだろうか。感じてきた充足感を「小さなもの」だとみなすようになり、「もっと大きなこと」をするための資金を求めるようになってはいないだろうか。NPOと自治体の関係は、国と地方自治体における補助金と機関委任事務の関係を思い起こさせはしないだろうか。

活動を広げたいという気持ちはよく理解できる。そのために資金が必要になることも。交流から生まれるものもあることは明らかだ。なのになぜだろうか、忙しいという字は心を亡くすと書くのだと誰かが言ったことが思い出されてしまう。

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